豊臣秀吉くんの日記:第88回 そういう国だから
天正一九年六月朔日
「独り属国の使いが未だ至らないのは、どういうことか。」
明朝廷は、皇帝(万暦帝)二九歳の御前にて朝鮮を大いに疑った。
「時に日本に在った我が国の許儀後が、密かに報じて言いました。倭人は中国を犯そうと謀り、そうして朝鮮人に入貢して質とし、且つ引導を為すと喧(やかま)しく言う、と。」
「南客・陳申は琉球国より帰って曰く、倭人は朝鮮をもって先鋒となし、まさに中国を寇(こう:侵略)せんと。」
「南辺の将吏もまた朝鮮が倭と通謀することを伝えた。琉球国もまた使いを遣わして特に奏して言う。」
「既に国中、衆人に伝播され、本朝(中央の朝廷)は誹(そしり)を受けるに至った。この罪、朝鮮に問うことを欲します。」
「異議なし。」
「異議なし。」
「異議あり。」
閣老(宰相)・許国(きょ こく)が言う。
「吾はかつて朝鮮に使いし、その至誠は大いに仕えることを知る。断じて倭に与(くみ)することはないだろう。」
「使いに行かれたのはいつでしたか。」
「先帝(隆慶帝)の時、およそ二五年前である。」
閣臣(かくしん:大臣)以下、皆笑う。
その時、後ろより前に進み出る臣あり。
「恐れながら、只今礼部(らいぶ:官庁の一つ)から急の報せがありました。」
「何だ。」
「朝鮮より聖節使(明皇帝の誕生日を祝す使節)・金応南の行が到着したとのこと。」
場は響動(どよ)めき、許国は皇帝を振り返った。
「日本は大明を攻めようと欲しています!」
対馬島主・宗義智二四歳は海を越えて、釜山浦(プサンポ)に至る。そうして辺将に訴えた。
「まだいたのか。帰れと言ったはずだ。」
辺将は呆れた。
「このこと、急ぎ大明に報せてください。」
「何のために。」
「貴国の地方に一様に禍(わざわい)をもたらすのですよ!」
義智は強く迫った。
「わかった、わかった。急ぎ漢城(ハンソン)に馬を走らせ、王様(宣祖)に告げよう。」
辺将はなだめるように言った。
「本当ですか!?」
「無駄だと思うけど。」
「どうして。」
「そういう国だから。」
辺将と義智の間に冷たく海風が流れた。
カテゴリ:豊臣秀吉くんの日記 | 2026-01-26 公開
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