豊臣秀吉くんの日記:第81回 福建商人・陳申、本国へ通報
天正一九年四月一日
「大明に国家の大難を報せると――」
琉球に在りて、三六姓(那覇久米村に住む福建人)の鄭迵(チェンドォン)は息をのんだ。
「私は福建の金門島(きんもんとう)の商人ですが、船が難破し、琉球に至ったのも天命にございましょう。」
陳申(チェン・シェン)は、拱手(きょうしゅ:胸の前で両手を組み合わせた敬礼)をした。
「二年前、倭王の使いが私に金を贈り、大明行きを講じました。
またこれを聞いた王様(琉球国王・尚寧)も堅持して屈せず。しかしその後も王様を説得せしめんと、重ねて倭王から遣わされる者多し。則ちここから海に出るも危ういでしょう。」
「貴公(あなた)は元福建の人、国子監に就学。都に至って天朝の恩を受けました。
琉球王に侍(じ)し、また琉球王は太祖(洪武帝)の盟を受け、親ら王爵に封じられました。今に至り、国家は戦禍となり、父母は塗炭となるに、どうして知らせずに忍んでいられましょう。
私は小舟を買い、琉球の梶取(かじとり)を傭(やと)い、身を捨てて航海するのみ。」
「待たれよ。先に私は王様より一小舟に梶取を賜っております。
私から倭情をもって王印を請い、琉球王府通事(つうじ:通訳)・鄭廸(チェンディ)を遣わしましょう。」
かくして陳申と通事・鄭廸、王印を携えるも、倭船が多々、琉球に在った。
時を待って、倭船が去った今年三月二六日に乗船。久米島の古美山に往きて礼仏を拝した。
海に出て、つむじ風に度々遭い、二一日の午に至り(福建省)漳州(しょうしゅう)の山を見た。
入江に寄って水を取り、南風にあたり、船が(同省の)首都に至る。
「琉球国中山王の王印をもって陳申が、速やかに申し上げます。」
陳申は、通事・鄭廸と共に役人が居並ぶ中に立ち、ここ福州(福建省)の長官に述べる。
「今、倭王関白・豊臣秀吉は、ひそかに琉球・朝鮮を席捲して、中国を併呑(へいどん)せんと謀ることを聞きました。」
「まさか…」
「デタラメを申すな!」
辺りは響動(どよ)めきだった。
カテゴリ:豊臣秀吉くんの日記 | 2025-05-30 公開
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