第二部 侍韓流ドラマ

戦国デイズ – 武将たちの日記

豊臣秀吉くんの日記:第76回 哀れな者


豊臣秀吉天正一九年二月一〇日

負げだ…

上洛していた伊達政宗は、わしの裁許状を見て愕然とした。

葛西大崎一揆の一件は、木村吉清を改易とし、葛西・大崎領は政宗に恩賞として与えた。

所領に飛地(とびち)が生じぬよう忠三(蒲生氏郷)には、伊達領六郡を含む会津七三万石を与えた。

すなわち、政宗は居城のある本領を失った。

 

負けた…

京・聚楽第の一室にあって、政宗の裁許を聞いた石田三成は落胆した。

政宗、加増とはいえ転封であるぞ。

大谷吉継はこの友人を横目に見た。

蒲生氏郷に、政宗も私もしてやられた。利休側の勝利と言えよう。

しかし、楔(くさび)は既に打ってある。

奉行の増田長盛が辺りを気にしながら言った。

大徳寺山門の木像の件でございますか。

さよう。

誰があのような噂を流したのですか。

石田殿ではないのですか。

人聞きのわるい。私がそのようなことをするとお思いか。

お思いだよ。

この中の者ではないとすると、果たして誰が…

 

改まってお話とはなんでしょう。

聚楽第の座敷で、利休はわしに茶を差し出した。

「他でもない。」

わしは利休の茶をすすった。

「わしもその下を通る、大徳寺の山門。その上に、そなたを象った木像を安置するとは何事ぞ。」

先日殿下は、大徳寺長老を呼び寄せ尋問されたとのこと。そのお答えに従うまで。

「僭上(せんしょう)驕慢とは思わぬか。」

思いませぬ。木像が安置されたのは、一年半前のこと。どなたかの讒言(ざんげん)と言うべき。

わしは残りの茶を利休の顔に浴びせた。

千利休

ハッ

利休の口元が不屈に歪んだ。

ハハハハハッ!!

「何が可笑しい。」

秀長公が亡くなられて、こんなにも速く、流星落ちるが如く、破局が来るとは。

「哀れな者よ。」

利休は傍らにあった白い巾(きん)で顔をぬぐった。

誰がですか。

わしと利休は凄然として、微動だにしなかった。

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