石田三成くんの日記:第46回 告白
10月11日
朝鮮奉行として大谷吉継と渡海した私は今、首都ソウル・漢城(ハンソン)にいる。
今年四月まで漢城には朝鮮国王がいたが、日本軍が制圧する前に平壌に避難。民衆はそのあと、国王と朝廷が国を捨たと王宮に放火した。
私は今、焼失した王宮跡に立っている。王宮がどれほど壮麗だったかは、いくら鈍感な私でも察しは付く。
何故なら釜山から北上してここに至るまでの道――
目にした自然、人々の装束、建造物、耳にした音楽、口にした料理。隣国の文化がここまで発達していたとは夢にも思わなかった。だけどそんなこと思っちゃいけない。私は侍。日本より素晴らしい国はないんだ。
「三成!こんな所にいたのか。」
大谷が遠くから駆け寄って来た。
「もうすぐ軍議が始まるぞ。」
今年七月、明の援軍が平安道を襲撃。朝鮮奉行と軍師・黒田官兵衛は、今後予想される明の援軍来襲に対処するため、諸大名をここに召集した。
「大谷…」
「何?」
「私は朝鮮が好きだ。」
「こんな焼け野原にしといて、私たちは朝鮮を好きになる資格もない。」
「・・・・・・」
私は日本男子。決して人前で泣いてはいけない。なのに私の目から涙がこぼれた。
「正直な気持ちを話してくれてありがとう。それは強い人にしかできないことだ。
行こう、みんなが待っている軍議へ。朝鮮を好きになった君にしかできないことがたくさんあるはずだ。」
と大谷は懐から手ぬぐいを取り出した。
「血がついてるけど…」
「あ、ごめん。さっきまでキムチ食べていて。」
「汚いな…」
「贅沢言わない!」
大谷と私は噴き出して、それで私は涙をぬぐった。
カテゴリ:石田三成くんの日記 | 2016-10-11 公開
« 加藤清正くんの日記:第39回 オランカイの中心で愛を叫ぶ 藤堂高虎くんの日記:第9回 不思議 »
ランダムデイズ
- 豊臣秀吉くんの日記:第51回 耳と鼻の始まり
- 小西行長くんの日記:第51回 鷲の隣人
- 李舜臣くんの日記:第1回 海の上で日記を書いてもいいだろうか?
- 毛利秀元くんの日記:第13回 真善美
- 大谷吉継くんの日記:第17回 孤独の糸