毛利秀元くんの日記:第10回 医僧・慶念、現る
12月14日
日本軍が慶尚道・黄石山城と全羅道・南原城を落として、全羅道・全州で宴を開催。
精鋭部隊だろうか、朝鮮軍数人がその夜、闇に紛れて全州日本陣営に侵入。
その中に降倭・沙也可がいて、僕は刀を抜いて彼の刀と相対した。
日本軍の大勢が朝鮮軍侵入に気付くと沙也可は「ままごとはここまでだ。」と刀を鞘に納め、味方の朝鮮軍と合流、奪回した朝鮮人のうち幼い子は背負って、高い塀を飛び越えて消え去った。
僕の所に駆け付けた家臣の宍戸元継が、
「殿、大丈夫ですか。」
と声をかけた。
「大丈夫なのものか…」
僕はその場にへたり込んでしまった。
沙也可に一度目は同情され、今回は手加減してもらった。
自由と不自由。不合理と合理。滅びと成長なき成長。
彼と僕は対照的だった。
僕は何の為に生きているのだろう。
答えが出ないまま再び夜が明ける。明ければここから首都ソウル目指して再び出撃だ。
一睡もできなかった僕は、全州の宮殿の片隅で一人うずくまっていた。
伯父上(小早川隆景)は僕に言った。
「秀元は毛利の最終兵器。」

慶念
父上(穂田元清)は僕に言った。
「朝鮮に渡ったら平和の道具となって、太閤ではなく、おまえの信じる神なり仏なりにお仕えなさい。」
「うるさ――いッ!!」
頭に蘇った亡き二人の父の言葉を、僕はブンブン頭を横に振ってかき消した。その時、
「どうされました?」
と朝日を背後に一人の僧が僕に声をかけた。僕は顔を上げて尋ねた。
「あなたは?」
それが太田一吉軍に属す医僧・慶念と僕の最初の出逢いだった。
カテゴリ:毛利秀元くんの日記 | 2016-12-14 公開
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