毛利秀元くんの日記:第9回 最終兵器彼氏
10月25日
日本軍は今年、朝鮮へ再出兵し、慶尚道・黄石山城と全羅道・南原城を陥落させた。これを祝うため全羅道・全州(チョンジュ)で宴が開かれた。
その夜、僕は本国の輝元公からの文で二人の父の死を知った。
僕は一人、全州の宮殿の外を出て、夜空を眺めていた。そのとき突然、
「義兵だ!」
という日本兵の叫び声が聴こえた。僕には二人の父の死を悼んでいる暇もないらしい。
敵数人は僕を無視して宮殿の方へ、一人は僕に斬り込んできたので、僕はすぐさま刀を抜いて応戦した。精鋭部隊だろうか、かなり剣が立つ。というか日本刀!?
「お飾り総帥かと思ったら、やるじゃないか。」
日本語だった。
「沙也可?!」
彼は文禄の渡海の際、自ら朝鮮軍に投降した加藤清正の元先鋒将。
「また逢ったな、安芸宰相。清正はどこだ。」
容赦なく攻めてくる沙也可の刀を、僕は必死でカチカチ何度も振り切った。
「貴様のような裏切り者に答える筋合いはない。」
「私が裏切り者なら貴様は日本の恥だ。」
渡海前。病床の伯父上(小早川隆景)は僕に言った。
「秀元が聡明な青年に成長してくれて、私には思い残すことがない。秀元は毛利の最終兵器。」
病床の父上(穂田元清)は僕に言った。
「朝鮮に渡ったら平和の道具となって、太閤ではなく、おまえの信じる神なり仏なりにお仕えなさい。」
ってどうやって?
お許しください、伯父上、父上。
毛利の最終兵器は日本の恥となって、平和の道具となった裏切り者に討たれんことを――
カテゴリ:毛利秀元くんの日記 | 2016-10-25 公開
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