藤堂高虎くんの日記:第24回 豊臣一族と私
文禄四年七月八日
「淀の方様がまたも男子を出産された?!」
一昨年の冬、豊臣秀保様と私は大和郡山で、伏見に遣いに行っていた者から聞いた。
「それは確かか。」
私は訝(いぶか)しんだ。
「太閤様はこの報せを名護屋で聞き、八月下旬に大坂にてお子を抱いたとのこと。」
遣いの者はそう答えた。
何故か心が晴れない。秀保様はそれ以上だったかもしれない。
「兄が心配です――」
不安は今、まさに現実のものとなっている。
数刻前、伏見城で太閤より伊予国を賜った。
一刻前、城外で高野山に向かう秀次様一行に出くわした。
秀次様一行がとうに見えなくなっていることにも、雨が益々激しくなったことにも気付かず、私はその場に立ち尽くしていた。
秀次様が関白の身分を剥奪されたとあらば、その弟の秀保様の三か月前の死因は…
「何故戻って来たのです。」
振り向けば豊臣奉行筆頭の浅野長吉(長政)殿。
雨が豊臣と私の間に降り続ける。
「言ったはずです。ここにあなたの居場所はないと。」
わかってる。わかってない。
だけど私には今一度、挑みたい人がいる。
それで後悔しても構わないと思えるほどに――
カテゴリ:藤堂高虎くんの日記 | 2020-06-30 公開
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