加藤清正くんの日記:第51回 撃ちてし止まむ
文禄二年二月二一日
「紙筆など、女子供、次男以下、年寄、癩の遊び道具。
家督は一に筋肉、二に筋肉、三四がなくて五に筋肉!!」
早朝から、わしが腕立てしている所に、相良(さがら)二〇代当主・長毎(ながつね)一九歳がやって来た。
「家督になんか恨みでもあんのかよ…」
「早いな。何か言ったか?」
わしは構わず腕立てし続けた。
「日本全軍が漢城(ソウル)に集結しています。我等第二軍はいつ漢城に帰陣するのですか。」
突然わしは立ち上がって、相良の口を自らの手で塞いだ。
「な…※□△○…!!」
「王子たち(臨海君と順和君)に聴かれたらどうする!?」
わしは小さな小さな声で相良の耳元で叫んだ。
「何が問題なんです?」
相良はわしの手を力強く振りほどいた。
「漢城の腰抜け日本軍と違って、我等はいまだ静謐にここ咸鏡道(朝鮮東北)を統治している。」
「してません。いい加減、現実見ろよ。」
「捕らえた王子たちはどうする。漢城に連れて行くのか。」
「手放すしかない。」
「それだけは絶対に無理。」
「何故。」
その時、
「キヨマサドノ、シャガラドノ、オハヨウゴジャイマス。」
と朝鮮王子の順和君(スンファグン)一四歳が、目をこすりながらやって来た。
「神功の時も元寇の時も我等が祖先は、国難来ると雄叫びが起こった。耳を澄ませ、いま同じ血潮が高鳴り叫ぶ。国難来る。撃ちてし止まむ!」
「誰に向かって?」
「ウチュテシヤマム?」
「ミアネヨ(ごめん)。何でもない。朝ごはんにしよう。」
国難来る。ウチュテシヤマム
じゃ戦えないだろ。
「手放すしかありません。」
戦意喪失して己でなくなる。
そんな時こそ、古事記以来の合言葉。
「誰に向かって?」
いっそ君に向かって、撃ちてし止まむ――
カテゴリ:加藤清正くんの日記 | 2020-07-13 公開
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