豊臣秀吉くんの日記:第29回 それを信じるほどに単純な者たち
天正一三年七月一一日
――ある土地を囲い込み、これは俺のものだと言うことを思いつき、それを信じるほどに単純な者たちを見つけた最初の人が、市民社会の真の定礎者であった。
ジャン・ジャック・ルソー『社会契約論』第二部
「羽柴秀吉が関白を欲していると?!」
現関白・二条昭実(あきざね)公は、驚きの余りアゴが外れそうになった。
「関白であることは、従昭宣公(藤原基経、平安時代前期の公卿)より今に至るまで、サルはもちろん庶民でさえ望む職ではありません!」
それもそうじゃ。
わしとしたことが礼をわきまえておらなんだ。
そういうわけで、わしはおととといあたりから入京。そして近衛前久殿の養子となり、昭実公にはわしの舎弟になるよう契約を交わし、その恩として近衛家に一〇〇〇石、他の摂家に五〇〇石ずつ家領として贈った。
「秀吉が京に入り、御所を見物云々。内大臣に成り上がり、近衛前久様の養子を取り決め云々。すなわち関白を与えるか議論となり、前代未聞のこと――!」
と興福寺の学侶・多聞院英俊は天を仰いだ。
こんなにも早く、人々の耳に入るとは。畿内の人々は噂好きじゃの。然しながら関白職ごとき、そんなに騒ぐことであろうか。
もっと皆を驚かしてやりたい。
そういうわけでもないが、四国、九州――日本制圧も時間の問題で、その次はどうする?もしかして明国制圧。
なーんちゃって。
なーんちゃって!!
だけど、それを信じるほどに単純な者たちがいる限りにおいては――
カテゴリ:豊臣秀吉くんの日記 | 2019-08-17 公開
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