藤堂高虎くんの日記:第22回 対面
文禄四年七月八日
高野山から下山し、伏見城で太閤秀吉公に対面した。
「遅かったではないか。」
太閤は扇子で跪(ひざまず)く私の肩を叩いた。
「申し訳けありませぬ。」
私は深々と頭を下げた。
「高野山で何をしていた。」
「亡き大納言様(豊臣秀長)を弔っておりました。」
「いまだこれほど、我が弟を想うてくれる殊勝な者は、おぬしくらいなもの。有り難く思うぞ。」
「ははっ。」
「しかし、その才を捨て置いては、あの世から小一郎にわしが叱責されるであろう。『兄者、何やっとりゃあ!!』」
「ププッ!」
私は思わず噴き出してしまった。
「似ていたか!?」
「はい。」
「笑いがわかる。やはりそちを山に引き籠らせてはおけぬ。」
と太閤は私の手をかしっと取った。相変わらずよくわからない…。
けれど太閤に認められる。きっと有り難いことなんだ。
私は必死でそう思おうとしていた。
太閤との対面を果たし、正式に伊予国を賜り晴れて大名となって、伏見城を出た矢先。
何やら物々しい武家の行列が目に入った。その中に、凛とした直垂姿の貴人がいた。
「秀保様?」
死んだはずの、先の主君の名を発した。
「秀保様!」
そんなわけない。だけど――
「秀保様!!」
私が駆け寄ると、
「高虎!?」
その貴人は振り返った。
どうして、突然の雨。
太閤に認められる。
きっと有り難いことなんだ。
私は必死でそう思おうとしていた。
カテゴリ:藤堂高虎くんの日記 | 2019-07-05 公開
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