藤原惺窩くんの日記:第23回 刀なんかなくとも


藤原惺窩慶長三年五月一〇日

惺窩はカンペキだから。

広通様(但馬竹田城主・赤松広通)――

そんなことはありません。

書を借りるため相国寺を訪れたあと、京の骨董市で油を売っていたら、借りた本を盗まれた。

 

志が高く、もっと楽な道もあったのに、一人貧しさと非難に耐えている。

借りた本を盗まれ、挙句盗人を見失う、ただの間抜け。

自分の言動に後悔ばかりの日々。

 

通じていない書がない。

知らないことばかり。追いつけるだろうか――

自分の庭のように遊んでいた京の路地裏をすっかり忘れている…

こんなんだっけ?!

 

だから刀なんかなくとも惺窩は、我ら侍よりずっと強いんだ。

ぜえ、ぜえ……息が切れそう。

先の見えない道だとしても、己を信じて一か八か。

この路地を曲がればきっと――

 

「イタッ!!」

盗人と衝突した。

なんてしつこいヤツだ!

盗人は呆れて、私の風呂敷を置いて逃げ去った。

 

「助かった…」

風呂敷の中の借りた本を確認して、私はその場にへたってしまった。その時、

「!?」

ノリゲ

朝鮮の品?

石畳にキラリと光るモノが目に入った。

私とぶつかった衝撃で恐らく、先ほどの盗人が落としていった。

見たことがない。朝鮮の品だろうか。すなわちいくさで掠め取った…

私は天を仰いだ。香漂う小さな箱に房が付いてる。

 

通じていない書がない。

知らないことばかり。

女人の装飾具だろうか。何にどんなふうに使うのだろう。想像もつかない。

だから刀なんかなくとも惺窩は、我ら侍よりずっと強いんだ。

私は無力で、だけどまだすべきことがある気がして、

広通様――

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