藤原惺窩くんの日記:第21回 出逢い
3月9日
天下の道無きや久し…(論語・八佾)
食べる物も余りないが、読む本もない…。
播磨のあばら屋で私は溜息をついて嘆き、かつての学び舎であった京の相国寺に赴くことにした。
相国寺において私は、かつての弟子の学侶に何か経書を貸してほしいと頼み、今の退廃した世を嘆いた自作の漢詩を渡した。
「申し訳ない、差し上げられるものが何もなくて。」
「水くさい。先生の五語古詩、まことに有り難いです。浅学の私には難しくてよくわかりませんが。」
と弟子は苦笑して、気前よく書庫から経書を多々持って来てくれた。
帰り道、京で何やら骨董市が催されていた。朝鮮からの盗品らしい骨董が多く売られ、その華やかさの分だけ私は再び溜息をついて嘆いた。一段高いところに日本の粗末な椀が置いてあった。
「この一品は銀三千両です。」
「まさか、鳥用の水入れでしょう。」
「古田織部が認めた茶器ですよ!」
「だから?」
「これだから日本の美がわからない野人は!」
「あれ?」
気付くと、手にしていた経書を包んだ風呂敷がない!
辺りを見合わすと、私の風呂敷を持って雑踏の中に消えゆく浪人風の男の姿が!
「こら、待てええ!!」
その時あなたは、藤堂高虎の家臣数人に連れられ、朝鮮から伊予大洲を経て京・伏見に護送されていた途中だった。
私は必死で盗人を追いかけた。
運命の人とすれ違ったのも気付かずに――
カテゴリ:藤原惺窩くんの日記 | 2019-03-09 公開
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