藤原惺窩くんの日記:第6回 島津義久と伊集院忠棟の共謀
7月7日
私は儒学を直接学ぶため明国渡航を企図し、先月京都を出立。
内海から東九州海岸を経て今月、薩摩・浜之市(はまのいち)に到った。
そして島津家筆頭家臣・伊集院忠棟様に面会すると、
「日本軍、朝鮮再出兵となりかねないこの状況で、一人優雅に明へ遊学したいと?」
と伊集院様は呆れ返った。
「自ら反(かえ)りみて縮(なほ)くんば、千万人と雖(いえども)も吾(われ)往(ゆ)かん。
(自らを振り返って正しければ、たとえ敵が千万といえども私は立ち向かう。『孟子・公孫丑章句 上』)
どうか明へ行く船を出してくださいませ。」
と私は頭を下げて、所持金と刀と羽織を差し出した。
「これが私の財産全てでございます。」
「播磨の赤松広通殿との共謀ですか?」
と伊集院様は刀と羽織に付いている紋を見て問うた。
「もう戦争はしたくないという思いは同じでございます。」
「惺窩先生はその若さで既に高名な学者であり、学識の深さは誰もが認めるところです。しかし先生お一人、明に行ったところでこの国の何が変わりますか?」
「そうやって一人ひとりが諦めた結果が文禄の役ではありませんか?」
そのとき突然、隣りの襖が開いて、
「相分かった。」
と一人のご老人が出て来た。
「殿!」
この方が島津家当主・義久公!?
「初めてお目にかかります。」
と私は慌ててご挨拶した。
「無事を祈る。」
と義久公は私に言って出て行かれた。
「どうやら合格のようです。」
「義久公との共謀ですか?!」
「もう戦争はしたくないという思いは同じでございます。」
と伊集院様は笑って、
「早速船の手配をいたしましょう。」
と私に金と広通様の刀と羽織を返された。
カテゴリ:藤原惺窩くんの日記 | 2016-07-07 公開
« 毛利秀元くんの日記:第6回 全州の宴 李舜臣くんの日記:第9回 安骨浦パーフェクトゲーム »
ランダムデイズ
- 豊臣秀吉くんの日記:第49回 北条氏照の瞳
- 藤堂高虎くんの日記:第5回 置いてけぼりの九鬼と加藤
- 淀殿の日記:第38回 ひとこと
- 小西行長くんの日記:第51回 鷲の隣人
- 織田信長くんの日記:第46回 元亀のことは嫌いでも 、足利義昭のことは嫌いにならないでください