毛利秀元くんの日記:第6回 全州の宴
6月28日
慶長の役が始まって二か月余り。
僕を総帥とする右軍の先鋒将・加藤清正は、慶尚道・黄石山城を陥落させ、ほぼ同じ頃、宇喜多秀家殿を総帥とする左軍は南原城を陥落させた。
このあと右軍と左軍は、全羅道・全州(チョンジュ)にて軍議を開いた。
「お久しぶりです、安芸宰相殿。」
と宇喜多殿は僕に挨拶をして、
「軍議の前に日本軍勝利の宴といきましょう。」
と僕を自分の隣りに座らせようとした。他の日本の諸将らは既に妓生まで侍らせていて、真ん中には色鮮やかな朝鮮料理が並べられていた。
「とてもそんな気分になれませんが。」
「わかります。右軍と左軍はライバル。しかも両軍の快進撃は、今のところ五分五分ですから。」
「その差は何で決まるのですか?朝鮮の老若男女から削いだ鼻の数ですか?」
「・・・・・・・・。」
場は凍り付いた。
「この戦争に加わるには宰相様は若過ぎました。」
と左軍の小西行長が同情した。
「私は(数えで)19歳の若輩ですが、良心を汚染して劣悪になるのが大人ですか?」
と私が更に反発すると、

全州にて記念撮影までする大人たち。
「かぁわぁイイッ!!」
と右軍の黒田長政が叫んだ。
「右軍先鋒将としてこれからも、とっても純なうさ太を全力でお守りしまーす!」
と清正が酒を仰いだ。
「上官に向かってうさ太とは何だ!」
と私は刀を清正に突き付けた。
「何この逸材!」「斬ってしまえ、斬ってしまえ!」
「やかましいわッ!!」
と僕が所構わず刀を振り回すと、場はどっと盛り上がってしまった。
腐った大人たちに対抗するには、僕はまだまだ未熟だった。
カテゴリ:毛利秀元くんの日記 | 2016-06-28 公開
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