毛利秀元くんの日記:第3回 さよなら、秀秋ちゃん
3月17日
太閤秀吉様の命で朝鮮再出兵となり、釜山(プサン)日本本営には一四万の日本軍が着陣。
総大将の小早川秀秋殿は釜山に留めて、宇喜多秀家殿を総帥とする左軍は穀倉地帯の南部・全羅道へ。僕・秀元を総帥とする右軍は、都・漢城(ソウル)を目指して北上することとなった。
釜山から離れる前日。厩(うまや)で自分の馬を洗っていた僕の所に、
「行かないで、秀元くん!!」
と秀秋殿が駆け寄ってきた。
「秀秋ちゃん!!」
僕は秀秋殿を抱きしめた。
秀秋殿は伯父上(小早川隆景)の養子で、僕より三つ下の(数えで)16歳。血は繋がってないけれど僕のかわいい親戚だ。
「秀元くんと一緒にいられるのなら、と思って渡海したのに。やっぱり戦争はいやだよ、怖いよお。」
僕は懐から兎のぬいぐるみを取り出した。
「これは僕が三歳の誕生日に父上からもらった”うさ太”。今でも毎晩一緒に寝てるんだ。」
と僕は顔を赤らめて、うさ太を秀秋殿に渡した。
「そんな大事なうさ太を僕に?」
「大事だから秀秋ちゃんに預かってもらいたいんだ。たぶん、漢城への道のりは想像以上に危険なはずだから…」
「秀元くん…」
「僕は卯年なんだけど、寂しくなったら、うさ太を僕だと思って元気を出すんだ。いいね?」
「うっ、うん!」
と秀秋ちゃんはうさ太を自分の胸に押し当て、涙をぬぐった。
その夜、出陣前の右軍の宴があったのだけど、僕は一人、片隅で右軍の進路を最終確認していた。そこに、
「う~さ太!」
と加藤清正殿がやって来て、
「飲まない?」
と既に出来上がっている黒田長政殿と共に僕に酒を勧めてきた。
こいつら秀秋ちゃんと僕との会話を聴いていやがった!
「結構ですッ!!」
右軍総帥の僕は早速、先が思いやられるのであった。
カテゴリ:毛利秀元くんの日記 | 2016-03-17 公開
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