毛利秀元くんの日記:第15回 帰陣
2月18日
黒田軍と我が毛利軍は、首都ソウル(漢城)侵入を試みるも、忠清道・稷山(チクサン)で明軍の迎撃にあった。激戦のうえ、敵・味方ともに犠牲者を多く出し、決着がつかなかった。黒田・毛利軍は稷山から南下して、釜山日本本営に帰陣。
「秀元くん!」
と慶長の役・総大将の小早川秀秋殿が真っ先に僕を出迎えてくれた。僕が預けた、ぬいぐるみ”うさ太“と一緒に――
「秀秋ちゃん!」
と僕は秀秋殿を抱きしめた。
「秀元くんとここ釜山でお別れしてから、この一ヵ月、秀元くんが死んでしまったらどうしようって、気が気でなかった。」
「ほら、この通り元気で帰ってきたよ!」
と僕はくるりと回ってみせた。
「頭にも腕にも足にも包帯巻いて、ひどく負傷しているじゃないか!」
「宍戸が大袈裟にぐるぐる巻きにしただけさ。心配してくれてありがとう。」
「秀元くんはなんでそんなに優しいの…。」
秀秋殿はわっと泣き出した。僕は手ぬぐいで秀秋殿の目から流れた涙を拭いた。
「朝鮮の人々を傷つけているだけの人間を優しいだなんて、言ってはいけないよ。」
「誰に何と言われようが、僕にとって秀元くんはかけがえのない。その秀元くんの軍を攻撃した、明司令官・楊鎬(ようこう)が許せない。なんて目障りなヤツなんだ!」
「僕も驚いたよ。他国の為に命懸けで戦う人がいるなんて、世の中、捨てたもんじゃないね。」
「え?」
「ごめん、なんでもない。」
秀秋殿との再会を果たしたあと、僕は釜山日本本営に与えられた一室に一人倒れこんだ。また、楊鎬と相対してみたい。あなたになら撃たれてもいい。いいや、もう既に心臓を射貫かれている。
それって既に負けているってこと?僕は久しぶりに深い眠りについた。
カテゴリ:毛利秀元くんの日記 | 2018-02-19 公開
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