山内千代さんの日記:第17回 遠江年貢目録一件
7月28日
私は今日、関白・豊臣秀次様の京の居城、聚楽第を訪ねた。
「お久しぶりです、千代さん。」
と秀次様は微笑んで、自ら立てた茶を私に下さった。
「一豊は今、休憩中で城下に戦国かき氷を食べに出かけてしまって。」
と茂助(堀尾吉晴)が私にようかんを差し出してくれた。旦那の一豊も茂助も秀次様の宿老であった。
「その一豊のことなのですが、先日、一豊が太閤秀吉様からお預かりしている遠江(静岡)の徴収した年貢の目録を秀吉様に届け出忘れてしまいました。この失態に秀吉様はとてもお怒りのようで…」
と私は深い溜息をついた。
「私からも太閤殿下に一豊のことはお許しくださいますよう、お願いしました。事無きを得るとよいのですが。」
その時、一豊の件で石田三成、増田長盛、山中長俊の奉行がここ聚楽第に到着したとの知らせが入った。
「ちょうどよい、通せ。」
と秀次様は知らせてきた者に命じた。
そして石田、増田、山中の三人がこの部屋に入って来て秀次様に対面し、
「御折檻(ごせっかん)として、山内一豊は朝鮮に渡海すべし。」
と太閤から預かった文を石田が読み上げた。
「なんと!一豊も朝鮮の役に参戦せよと?」
「貴様ッ!」
私は思わず立ち上がった。
「控えよ!」
と増田が私を咎(とが)めた。
「前から朝鮮奉行である石田に言いたかったのだが、日本軍が朝鮮の、私のようなか弱き婦女子を傷つけてみよ!私は貴様と豊臣を絶対に許さない。」
「私のようなか弱き婦女子?!」
と山中が眉をひそめると、茂助がププッ!と噴き出した。
「茂助ッ!」
「ハイ、すみません!」
「日本の武将がそのようなことをするとでも?」
「美しい戦争があるとでも?」
「わかりました。覚えておきましょう。」
と石田は言って、増田と山中とともに部屋を出て行った。
「本当に一豊は朝鮮へ渡海することになるのでしょうか?」
「一豊は私の宿老だ。渡海させはせぬ。」
今、現実味を持って海外との戦争が私に迫って来たのだった。
カテゴリ:山内千代さんの日記 | 2015-07-28 公開
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