大谷吉継くんの日記:第29回 小西行長と沈惟敬の危険な和平プロジェクト
7月15日
太閤殿下の命令で日本は、朝鮮・明国連合軍と一年ほど戦争していたのだけど、去年の秋ごろ(文禄二年八月)から、日本軍が次々と朝鮮から帰国、休戦モードに入っていた。
しかしこのたび殿下は来日した明使に、明の皇女を日本の天皇の后にするなど、明国が到底承諾できそうもない和議の文書を突き付けた。
再び戦争が激化するかもしれない――
肥前・名護屋城の薄暗い倉庫で私が深い溜息をついた時、
「ごめん、遅くなった。」
と石田三成がやって来て、辺りを確認しながら戸を閉めた。
「こんな所に呼び出して、大事な話って何?」
と私は三成に尋ねた。
「いまだ朝鮮に在留している小西行長が、明国の沈惟敬(しん-いけい)と図って、太閤殿下の和議の文書を偽造した。」
「は?」
「小西の家臣・内藤如安は、その偽造の和議の文書を携えて北京に向かい、明の皇帝に恭順を誓った。」
「ウソでしょ!?」
「嘘じゃない。小西の手紙によると沈惟敬と共に今度は、如安が持ち帰った明国の国書を殿下が気に入るよう偽造。これを再来月大坂で沈惟敬はじめ明使が殿下に献上するそうだ。」
「殿下にバレたら、小西の命はないぞ。」
「そうならないよう、朝鮮奉行の私と大谷も初めから小西の策に賛同していた、ってことにしておかないか?」
「ちょっと待ってよ、そもそも明国の皇帝と太閤殿下を股に掛けてこんな大芝居、前代未聞だよ!」
「じゃあ、和平を実現する為に、他にどんな策が?」
「わかんないけど、危険すぎるよ。」
「この前、酒の席で大谷は私に言ったじゃないか。こんな時代だからこそ、流されて生きるより命がけでバカやりたいって。」
「言ったけどさあ…」
私はめまいがして柱にもたれかかると、三成は笑って
「私もずっとそう思ってた。今こそ、それを敢行すべき時なんじゃないか?」
と私の肩を叩き、この薄暗い部屋を先に出て行った。
マジっすか!私は苦笑した。
カテゴリ:大谷吉継くんの日記 | 2015-07-15 公開
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