藤原惺窩くんの日記:第16回 孤独を選んで


藤原惺窩戦国30年1月26日

日本が敵と見なした明へ遊学しようとしたが、突風に見舞われて鬼界ヶ島に漂着。やっとの思いで帰国すると国賊として見ず知らずの人たちに暴力を振るわれた。

但馬(兵庫県北部)竹田城主の赤松広通さまの元で数日傷を癒し、本日の夕方、城下から少し離れた自分のあばら家に一年半ぶりに戻った。明への旅費を作るために、大量にあった本は『孟子』を残して全て売ってしまったので、六畳ほどの我が家はがらんとして自分の家ではない感じがした。

私は縁側に腰をかけ、大きなアザが残る右頬に手をあてた。そういえば鏡も売ってしまった。私は一応男子だし、顔を気にして生きたことはなかったつもりだが、顔のアザがいずれ消えるのかとても心配だった。

自分らしく生きることは国を裏切ることなのだろうか。そんなことを庭の木に止まった頬を赤く染めた一羽・ホオアカを見ながらぼんやり思った。

 

惺窩。

今朝、竹田城を後にする私の腕を取って、広通さまは私を引き留めた。

傷もまだ深い。もう少しここにいてはどうか。

「ありがとうございます。大丈夫です。」

と私は広通さまの手をほどいた。

今の日本を救えるのは惺窩しかいない。

赤松広通

赤松広通

「私など何も…」

惺窩はわかってない。惺窩だけが日本の希望だ。

 

広通さまはいつも私を買いかぶり過ぎている。それが証拠に広通さまの手を振りほどいたことを、すごく後悔している。また誰かに殴られるのではないかと、家の外に一歩出ることすら怖くなっている。だけど何かして糧を得なければ生きていけない。何故私は、再び孤独を選んでしまったのだろう。

陽だまりのような温かい広通さまの手を振りほどいてまで――

見上げた空に、私より先にホオアカが飛び立った。

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