山内千代さんの日記:第14回 悪女
11月29日
幼い頃、私には一緒に遊んでいた農村の女の子が一人いた。
その女の子の父親はある日、女の子より牛の方が労働力になるといって、牛を購入する為に女の子を売った。
私は恐れおののいた。女の子は、私は、牛以下の存在なのかと。
学問をしなければと思った。女はバカだからというなら尚更学問をしなければと思った。そして女の子と自分を救いたいと思った。
「協力するよ。」
そう、最初に言ってくれた男が山内一豊だった。
私はその言葉がうれしくて一豊と一緒になった。けれどいくさに明け暮れ、ボロボロになって家に帰って来る一豊を支えるばかりで、私はいつの間にか学問どころではなくなってしまった。
転機は一豊が関白・豊臣秀次様の宿老になった時であった。関白・秀次様は意外にも大変勉強家で、古書収集家であった。
「あなたは私の信頼すべき一豊の大事な人だ。力を貸しましょう。」
と秀次様は、貴重な古書を私にたくさん貸してくれた。
それからの私は、嫡子を作るという女性の役割の放棄して、秀次様からお借りした書物を読みまくった。そういった私の行動は「女のくせに生意気だ」と男女問わず反感を買った。
そしていつの間にか世間から私は「悪女」と呼ばれるようになった。
「悪女か。千代さんにとってそれは誉め言葉ですね。」
と友人の茂助(堀尾吉晴)は笑って柿を一つ、私に向かって投げた。柿をキャッチして「そういうことにしておきますか。」と私も茂助にならって笑った。
牛以下の存在に生まれてきて私はただ、人間になりたかった。
美人になりたかったのではない。私はただ、人間になりたかったのだった。
カテゴリ:山内千代さんの日記 | 2013-11-29 公開
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