藤堂高虎くんの日記:第10回 大失恋
12月8日
恐らく私ほど李舜臣のことを知っている者はいないだろう。
そう、左水使(チャスサ)のことは、誰よりもわかっている。
海の上で彼と最初に戦ったのは私なんだし、部下と呼吸をぴったり合わせて海の上で見事な陣形を敷くことも、どれだけ海を知り尽くしているかも、彼のことなら何でも――
「貴様らは領議政様のことも知らぬのか。」
そう言って、九月釜山浦海戦で捕らえた朝鮮武人は、釜山日本本営で失笑した。
脇坂安治の「この国のナンバー2は誰か」の質問の答えがこれだったので、「貴様は自分の状況がわかっているのか?」と脇坂は縄で縛られたコイツの首に刀を突き付けた。
通訳の日本人は、速やかに脇坂の言葉を伝えると、
「覚えておけ。領議政・柳成龍(ユ・ソンリョン)様は我が国の宰相である。」
と通訳は速やかにコイツの言葉を脇坂と私に伝えた。
コイツの言う通り私たちはこの国のことを何も知らない。逆に言えば何も知らないから戦争が始まって以来、この国であらゆる蛮行ができた。
知ってしまえば、太閤の命令を遂行できなくなる――だから私は、
「この辺にしておきましょう。」
と脇坂に言った。なのにコイツは、
「県監だった李舜臣様を異例の階級七段跳びで左水使に推挙したのがその人である。」
と話を続けた。
「何だと?柳成龍と李舜臣は親しいのか?」
「古くからの友人である。」
その言葉で目が覚めた。
左水使のことは、誰よりもわかっている――
何でそんな思い上がりを?
柳成龍。
左水使の強さは彼の存在だとしたら?
まるで大失恋した人のように外に飛び出して、私は当てもなく駆け出した――
カテゴリ:藤堂高虎くんの日記 | 2016-12-08 公開
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