藤原惺窩くんの日記:第14回 私の先生
10月1日
「惺窩はずっと一人でいてほしい。」
いつだったか、但馬(兵庫県北部)竹田城主・赤松広通様はそう私に言った。
「何ですか、それ。」
私は眉をひそめた。
「配偶者とか、味方とか、支持者とか、そーいうの、いらないでしょ?」
「どうして?」
「真の学者だから。」
「は?」
「いや、私の先生だから。」
「・・・・・・。」
「国賊・藤原惺窩を探せ!」
漂流した鬼界ヶ島から日本本土に帰還して、京の相国寺で油を売ること一か月余り。敵国・明へ遊学を企図した私は国の裏切り者として有名になっていた。
正義を振りかざした人々に追われた私は、京の町中を逃げ回った。
「惺窩はずっと一人でいてほしい。」
「配偶者とか、味方とか、支持者とか、そーいうの、いらないでしょ?」
真の学者でいるには、これほどの孤独と恐怖の中を生きなければならないのだろうか?
「いたぞ!」
正義の人たちに腕をつかまれ、路地に連れ込まれ、殴られ蹴られて、身ぐるみはがされた。
「こいつ、いいモン持ってんじゃん。」「赤松の紋じゃね?」
それは明への旅費として広通様にいただいた刀――
「返せ!」
「返してくださいだろ?」
「返してください!」
「マジで言ってやがる!」
そう正義の人たちは笑い、私は再び殴られ蹴られた。
広通様の先生でいるには、私は弱過ぎた。情けなくて、惨めすぎてこのまま死んでしまってもいい。
意識がなくなりそうな中で、広通様の言葉が聴こえた。
「惺窩とだったら、この天空の城から日本を変えられるかもしれない。」
カテゴリ:藤原惺窩くんの日記 | 2017-10-01 公開
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