加藤清正くんの日記:第45回 ゆとりクール
3月21日
世界がうらやむ素晴らしき日本。それもこれも英邁な君主・秀吉公のお陰。我等はこのご恩に報いるべく秀吉公の願い・明制圧を助けてやるべきであろう。
それを何を勘違いしたのか、ソウルに在陣する朝鮮奉行・大谷吉継が鍋島直茂殿宛に文書で、清正に加担せぬよう忠告し、咸鏡道(ハムギョンド)撤退命令を下した。
朝鮮東北・咸鏡道の司令官はこの清正。言いたいことがあるなら、わしに直接言えばいい。
「あなたに言っても仕方ないから、鍋島殿に言ったのでしょう。」
と相良長毎(ながつね)が深いため息をついた。こいつは、第二軍(咸鏡道担当)である加藤清正一万、鍋島直茂一万二千に加えて、八百の軍を率いる肥後人吉の一九歳の大名だ。
「撤退なさいますか。」
と鍋島殿が唇をかみしめた。
「その必要はあるまい。他の軍と違い、咸鏡道はいまだ静謐である。」
とわしは酒をあおった。
「どこがだよ。咸鏡道要衝・吉州城は義兵将・鄭文孚(チョンムンブ)に包囲され、城内の日本軍は今も飢えと寒さに苦しんでいるというのに。嗚呼、おいしい…」
と相良が優雅にスンドゥブを匙ですすった。
「流石ゆとり。言ってることとやっていることがおかしい…」
「このくらいでないと、第二軍は務まらないでしょう?」
「キヨマサドノ、ミショシルオカワリ!」
と捕らえた朝鮮王子・順和君(スンファグン)が椀を片手に叫んだ。
ガシャン!!
酔っぱらって食卓で眠ってしまった順和君の兄・臨海君(イムヘグン)の手にあたった皿が落ちた。
「やはりもう、限界なのでは?」
「なんのこれしき。いつものことだ。」
とわしは涙をこらえて、割れた皿の破片を拾い集めた。
カテゴリ:加藤清正くんの日記 | 2018-03-21 公開
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