藤堂高虎くんの日記:第16回 珍客


藤堂高虎戦国30年3月29日

主君・豊臣秀長さまと秀保さまを立て続けに亡くし、お仕えする人もいなくなった私は、高野山に引きこもった。そして、初めのうちは、ず――っと眠っていた。

眠ることに飽きると、高野山の移りゆく自然をず――っと観察しては、下手な歌を詠んでみたりした。

そしてふと思った。自己の増大より、節制こそ、私が私であるために必要なことなのではないか。余白の時間を手にし、外ではなく自己を見つめるようになった私は、三〇代の若い時分とは逆のことを考えるようになっていた。単に歳かもしんない。

本日、高野山の寺から借りた書物を返そうと書庫に行くと、何人もの僧が色めき立っていた。

「何かありましたか。」

と私が尋ねると、

藤堂高虎殿ではありませんか!

と侍が驚いた。

「あなたは、えーと…加藤嘉明の家臣、塙団右衛門(ばん-だんえもん)殿!?」

覚えていただきまして光栄です。

「朝鮮との海戦では苦楽を共にした仲です。嘉明殿はお元気ですか。」

はい。我が殿はいまだ安骨浦倭城に詰めております。殿より私は一時帰国を許されたので、我が軍が朝鮮から盗んだ文献を私が盗んで、こうして僧に高値で売り払っているのです。

「嘉明殿にバレたらどうするんです?」

塙団右衛門

鼻血ブーな本もあるよ?

それは、この金で一杯おごれと?

「お察しの通り。」

どうしようもない私たち。その笑い声は山に響き渡った。

それにしても高虎殿は何故こんな所に?

私はしかじかと答えた。

そうでしたか。それでは我等が宿敵・李舜臣が王命により朝鮮水軍を追われたことはご存じありませんか?

「え?」

私は耳を疑った。

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