豊臣秀吉くんの日記:第46回 小田原への宣戦布告
天正一七年一一月三〇日
わしが諸大名に小田原への出陣を命じた時、知るよしもないが朝鮮では――
「何故私が倭国へ!?」
通信使に任命された司成・金誠一(キム・ソンイル)が、彼の職場である成均館にやって来た柳成龍に訴えた。
「倭国に使節を遣わすか否か、朝廷では数か月に及び議論が紛糾、収拾がつかなった。しかしいざ、使節の派遣が決まれば、遣わすべき者はあっさり決まった。」
と柳成龍は胸を撫で下ろした。
「ちょっと待ってください。勝手に決められても…」
「危邦には入らず、乱邦には居らず…(論語 泰伯)」
「駄目じゃないですか!」
「冗談だよ。これは王命であるぞ。人一倍、礼や文に通ずる、そなたの他に誰が適任というのか。」
「私が適任であるなら何故、西人(ソイン)派の黄允吉(ファン・ユンギル)が正使で、東人(トンイン)派のこの私が副使なのですか。しかも位は同じ従三品といえど、あちらは地方官ですよ。」
「やはり、誠一しかいない…」
「意味がわからないです!」
「無事帰国し復命(報告)したならば、王様も大いに喜ばれ労(ねぎら)い、大臣を以って誠一を堂上(タンサン:正三品)に登らすよう、お命じ下さるであろう。」
「虎穴に入らざれば…か。」
「使節を殺すほど、秀吉も礼をわきまえぬ王ではあるまい。」
知るよしもないが小田原当主の父・氏政は、わしからの宣戦布告の状を地に叩きて、弟・氏照に向かって言った――
「奴はこんな書状一枚で我等をはいつくばらせようとしている。誰がその手に乗るものか。戦いを挑んできたら、水鳥のはばたきででも敗走させようぞ。わしは座ったまま奴が平維盛(これもり)の二の舞を演ずるのを見物してやる――」
小田原への出陣の命に対し、奥州の最上義光、津軽為信、南部信直、秋田実季、佐竹義宣らは返書にて応じた。
相変わらず伊達政宗からの返答がない。
権力に逆らっても無駄なことだから、かつてわしなんぞ信長様だけでなく、信長様の小姓・森蘭丸にも礼を尽くし金品の贈答を欠かさなかった。
田舎武者には難しいかな?!
カテゴリ:豊臣秀吉くんの日記 | 2022-06-30 公開
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