豊臣秀吉くんの日記:第45回 伊達政宗と北条氏の共謀
天正一七年一一月二〇日
「これまでは我等が策の通り。」
北条前当主・氏政が小田原城の一室にて、弟らに言う。
「秀吉が惣無事令(私闘禁止令)を発した後の今年六月、伊達政宗が会津に侵攻。摺上原(すりあげはら)で、芦名を滅ぼした。」
「八月、我等は氏規を上洛させ、秀吉に形だけの礼を取らせた。」
と氏政のすぐ下の弟で武州八王子城主・氏照が腕組みした。
「十月、私の命で家臣の猪俣邦憲に、真田昌幸の名胡桃城を急襲させ奪わせました。」
と氏政の二番目の弟で武州鉢形(埼玉県寄居町)城主・氏邦が、目の前の日本図において上野(こうずけ:群馬県)を扇子で指した。
「昌幸はこれを直ちに秀吉に報じた。秀吉は激怒して北条攻めが決まる――」
「ここまでは、関八州の北条と奥州の伊達の意図する通り事が運んだ。未だ伊達は信じられるか。」
「政宗側近の片倉景綱は、あくまで秀吉に武力対決を挑む、私と同じく最強硬派。常に互いの関係を絶やさぬよう努力しております。景綱は信じられますが…」
「政宗はまだかッ――!!」
「突然どうなされましたか。」
わしの立てた茶を飲もうとした千利休が驚いた。
「嗚呼、今宵三日月が見えますね。」
聚楽邸の茶室から、利休が夜空を仰いだ。
「上洛するよう何度も催促したが、全て無視しおる。」
「お忙しいのでしょう。いくさで。」
「惣無事令も無視。」
「若者は血気盛んなもの。」
「北条は何だ。」
「北条当主氏直殿も、伊達政宗殿も共にまだ二十代と聞いております。」
「出た、斎藤道三知らない世代。」
「?」
「繊細なわしは、若い時分から血を見るのを厭うたものよ。」
「初耳です。」
と利休は静かに茶をすすった。
カテゴリ:豊臣秀吉くんの日記 | 2022-05-30 公開
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