豊臣秀吉くんの日記:第43回 千利休 登場
天正一七年一一月五日
知ってると思うけど。
上野(こうずけ)国(現 群馬県)沼田。
かつて信長公が、その家臣・滝川一益にこの地を与えた。
信長公が本能寺に倒れると、一益を追い出すべく、関東の覇・北条氏直は大軍をもって出陣。
一益を追い出した氏直は、上野から信濃へ進攻した。
当前だけど。
天正一三年、わしは関白となり、翌年には豊臣姓を授かり、関東・奥州に私闘禁止令を出した。
バカなの?
これを無視して、北条の先代・氏政、これの弟の氏照・氏邦は、上野平定と周辺への領土拡大を押しすすめた。
仕方ないね。
当年春、上野沼田の真田領についてわしは、三分の二を北条領、三分の一は真田領として安堵した。
沼田北条領を預かっていた氏邦は、その支配を家臣の猪俣邦憲(いのまた-くにのり)に命じた。
「ご注進申し上げます。」
聚楽第の一室でくつろいでいたところ、長吉(浅野長政)が現れた。
「苦しゅうない。」
許可すると、長吉は廊下より進み出た。
「先月末、沼田北条領の猪俣が兵を動かし、真田領・名胡桃(なぐるみ)城へ侵攻したと、真田昌幸殿から報がございました。」
長吉はその報を差し出し、わしは受け取った。
「出かしたぞ!」
「お座り遊ばせ。」
わしの側に居った利休が茶を差し出した。
わしは座して、茶をすすった。
「この度の茶は格別じゃ。」
利休は黙して頭を下げた。
「主も行くか。」
「どちらへ。」
「またまた~!長吉の話、聞こえなかった?」
「茶を立てておりましたので。」
知ってると思うけど。
「読め。」
真田の報を利休の前に放(ほう)った。
当然だけど。
小躍りして廊下に出た。
バカなの?
わしの前では皆。
仕方ないね。
カテゴリ:豊臣秀吉くんの日記 | 2022-03-31 公開
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