毛利秀元くんの日記:第20回 戦国バレンタインと呼べない


毛利秀元戦国31年1月18日

ソヨンがいなくなった釜山本営の自分の部屋に久しぶりに戻った。なんとなく机の引き出しを開けると、玉のように光輝く淡い緑色の指輪と文が入っていた。

文は、ソヨンと共に逃走した裏切りの毛利の者からだった。

「私は四年前、文禄の役の最後、晋州城再攻撃の際に殿と共に初めて朝鮮に渡りました。日本軍の余りの凄惨さは、この世のものとは思えませんでした。

私は帰国せず倭城にあって、密かに朝鮮語を覚え、私の知る限りの日本軍の動向を逐次朝鮮軍に注進していました。晋州城であったようなことが二度と起こらぬよう、そうせずにはいられませんでした。

朝鮮軍の信頼を得てソヨン様を紹介されたのは、それから間もなくのこと。ソヨン様は晋州城の戦いで、親兄弟は皆殺しにあい、ソヨン様は自身は――余りに辛すぎて私の口からは申し上げられません。

ソヨン様は日本軍への復讐を誓い、太閤がダメならそのすぐ下の者の首を取りたいと望まれました。高官の娘らしい志の高さ。しかしそれは余りに無謀で、私はお止めしましたが、

これは頼みではなく命令だ。

とソヨン様に言われました。命を受けた私は、毛利の者に根回し、鉄砲隊から殿の身の回りのお世話をするお役目を獲得。こうして殿に接近し、殿の部屋にソヨン様を忍び込ませました。

しかし殿は、ひたすらにソヨン様をお避けになりました。それでいて殿は食事は勿論、ソヨン様が退屈せぬよう、経書―論語や詩経、礼記などを私を通じてお部屋に運ばせました。

かわいそうな人は皆、勤勉だと思わないでほしい。

とソヨン様は発狂。しかし七日経っても殿は、お部屋に戻ることはありませんでした。

余りにも私が好みではなかったか?

とソヨン様は大切な指輪を外して、

安芸宰相に。

と私にお命じになりました。その真意は図りかねますが、殿を討てなかったとはいえ、気にかけつつ無関心でいてくれたことへの礼かもしれません。」

そんなまさか。

 

「まだ戦国バレンタイン、もらっていないんです。」

一個も?

 

戦国バレンタインとは呼べない指輪を握り締め、僕は嗚咽した。

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