毛利秀元くんの日記:第19回 ソヨン
11月10日
釜山倭城の僕の部屋に在った両班の娘がいなくなったので、僕は城外に出て彼女を探そうとした。
「日本軍総帥たる方が、なりませぬ。ここは我々にお任せを。」
家臣の宍戸元継が僕の腕を取った。
「ならば総帥を下りてもいい。」
僕は宍戸の制止を振り切って、城外に飛び出した。
彼女を夢中で探しているうちに気付けば僕は一人、城から遠く離れた竹林の中にいた。まずい。人の気配を感じた瞬間、朝鮮軍十数人が現れ、僕を取り囲んだ。
「女々しい侍だな。」
それは僕の部屋に娘を連れて来た僕の家臣――!
「そんな、いつから朝鮮軍に…」
刀を抜こうとした瞬間、四方から刀を突き付けられ、僕は尻をついた。
「文禄の晋州城再攻撃後より。」
「そんな前から?!」
竹林の影から、僕の部屋にいた娘が現れた。
「よかった、無事で。」
彼女は僕の前に進み出て言った。
「ウリナラウィ ヨソンウル テピョハヨ(我が国の女性を代表して)――」
何を言っているのかわからなかった。
バシッ!
彼女は僕の顔を思いっきり引っ叩いた。
「殿!」
後ろから宍戸以下、十数人の僕の家来が駆け付けた。そして直ちに発砲した。
「打つな!」
「ソヨンニム(素延様)!」
僕を裏切ったの家臣は彼女の手を取り、朝鮮軍と共にこの場から風のように消え去った。
今更あなたの名を知っても遅いだろうか?
ソヨンニム――
カテゴリ:毛利秀元くんの日記 | 2018-11-10 公開
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