藤原惺窩くんの日記:第20回 郷党
11月20日
但馬(兵庫県北部)の天空の城・竹田城。城主の広通様と私は、雲海かすむ城内の階段にいた。
「齋(し)を摂(かか)げて堂を升(のぼ)るに、鞠躬如(きくきゅうじょ)たり。」
と私は城内の階段を上る時、裾を持ち上げて体をこごめた。
「気を屏(おさめ)めて、息せざる者に似たり。」
と広通様は、まるで息をしない者のように息づかいをひそめた。
「出(い)でて一等(いっとう)を降(くだ)れば、」
と私は階段を一段降りると、
「顔色(がんしょく)を逞(はな)って、怡怡如(いいじょ)たり。」
と広通様も、顔色をほぐして気楽になった。
「階(かい)を没(つく)せば、趨(はし)り進むこと翼如(よくじょ)たり。」
と私は階段を降りつくし、歩調を正しく歩いた。
「その位(くらい)に復(かえ)れば、踧踖如(しゅくせきじょ)たり。」
と広通様が言ったので、私は広通様の位置まで戻ってうやうやしくした。
以上は全て『論語』郷党篇に記されていること。
「広通様、カンペキです。」
「ありがとう。ではない!惺窩といると、どんどんヘンな人になっていく。」
「よいではありませんか。」
「責任取って私に仕えよ。」
「お断りします。」
「そんなにハッキリ断るなよ。」
「お断りします!」
広通様と私は笑った。
「全く、惺窩はズルいよ。」
「今頃気付いたのですか。」
「手遅れだな。論語の一節一節を覚えていくのが、毎日何だか楽しいんだ。侍失格だな。」
「好学の広通様こそ、まことの士でございます。」
雲海が去り、紅葉色づく山々が現れた。
そして、朝鮮から儒の巨人が二人の目の前に現れるのも、もう間もなくのことであった。
カテゴリ:藤原惺窩くんの日記 | 2018-11-20 公開
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