毛利秀元くんの日記:第16回 人生最大の侮辱
5月12日
職を解かれていた李舜臣が、朝鮮水軍司令官として復帰すると日本水軍を撃破した。制海権を朝鮮側に握られ、日本勢は帰国することも困難になった。
今後どうすべきか、釜山日本本営で軍議が夜更けまで行われ、疲れ果てて自分の部屋に戻った。襖を開けて、畳に倒れこもうとした時、え。女人が目の前にいた。
「おまえは誰だ!」
僕はびっくりして大きな声を出すと、
「가까이 오지마(カッカイ オジマ)!」
と女人は刀を自分の首に突き付けた。
朝鮮語がわからなかったが、僕は慌てて部屋を出た。あの刀は僕の亡き父上・穂田元清の形見。部屋にある机の引き出しの奥にしまっておいたものだ。頭の中がぐちゃぐちゃになって廊下を歩いていたら、人にぶつかった。
「すまぬ。」
「申訳ございません!」
僕の身の回りの世話をしている家臣が土下座した。
「そんな、大げさな。」
「お気に召さりませんでしたか。」
「は?」
「若くて童顔なのに豊満でいまだ男を知らず、孝行者で、ツンデレで、学がないわけではないが自分で思考することがなく、釘を刺すにも刺しようがない従順な女、というのは朝鮮にはいそうでいなかったのです。」
「……」
あの女人を僕の部屋に勝手に入れたのはコイツか。
僕はいつ、若くて童顔なのに豊満でいまだ男を知らず、孝行者で、ツンデレで、学がないわけではないが自分で思考することがなく、釘を刺すにも刺しようがない従順な女、がいいと言っただろうか。
こんなことをされて喜ぶ男だと、僕は他人からそんなふうに見られているのだろうか。サムライの大概がそうなのだとしても、一緒にしないでほしい。
今宵僕は、人生最大の侮辱を受けたのだった。
カテゴリ:毛利秀元くんの日記 | 2018-05-12 公開
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