後藤又兵衛くんの日記:第64回 沙也可
5月26日
太閤の命で黒田軍は、黄海道・海州(ヘジュ)に軍事拠点を構えていた。先日、黒田軍の雑兵が海州周辺で朝鮮人の男女二人を捕らえた。
「女の方は背高く、えらいベッピンではないか。育ちもよさそうだ。よし、太閤様への土産としよう!男の方は体格がよく、城普請にでも使えそうだ。又兵衛、とりあえずこの二人を牢にぶち込んでおけ!」
そうダミアン(黒田長政)は俺に命じた。女の目から涙が落ちた。
それから間もなく、黒田軍は海州において義兵将・李廷馣(イ・ジョンアム)の軍から攻撃を受けた。急ぎ応戦したが、陣中に大砲を撃ち込まれて、陣幕も床几も兵も吹っ飛ばされた。
その瞬間、
「黒田長政覚悟!」
と先日捕らえた女が、倒れた我が兵の刀を持って本営に斬り込んできた。
「日本人!?てか男!?」
と俺は女の刀を刀で受けた。強い――!カチカチ幾度となく刀と刀がぶつかり合った。
「殿、早くお逃げください!」
「沙也可(さやか)!?」
「え。」
「こいつは虎兄(加藤清正)の家臣で朝鮮軍に自ら投降した岡本越後だ!」
「捕らえられた我が国(朝鮮)の女人を救いに参った!」
今頃相方の男は、我が軍が捕らえた女人の手にかけられた縄を斬り、解放しているところだろうか――
大した女、いや男だよ。あの涙にすっかり騙された。
華やかなチョゴリを身にまとい、容赦ない刀さばき。
いつも人の命令ばかりを聞いている分だけ、自由って美しいな、と思った。このまま君に斬られて死んでもいいくらいに――
カテゴリ:後藤又兵衛くんの日記 | 2018-05-26 公開
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