加藤清正くんの日記:第41回 臨海君と順和君
3月6日
「キヨマサドノ、オカワリ!」
と順和君(スンファグン)が皿を片手に叫んだ。こいつは去年、朝鮮東北・咸鏡道(ハムギョンド)に侵入した際に捕らえた朝鮮王子。
それはいいんだが育ち盛りの一三歳。恐ろしい程よく食う。
わしが治めるココ咸鏡道は日本の八丈島の如くが流刑地で、年貢を搾り取ろうにも作物がほとんど取れない。なのに、
「キヨマサドノ、オカワリ!」
と順和君はこの日本語だけは覚えて、容赦なく飯の催促をしてくる。わしは溜息をついて、順和君に自分のキムチ入りの握り飯を分けた。その時、
「ジャジュンナッ!(イライラする)」
ガッシャーン!!陶器が割れた音がした。振り返ると、臨海君(イムヘグン)が日本軍が盗んだ朝鮮の壺を割った。臨海君は順和君の兄で年は二一。
こいつは長男の自分を差し置いて、国王が弟の光海君(クァンヘクン)一八歳を世継ぎと定めたことに苛立っていた。国王がこいつを選ばなかった理由がわかる気がする。
臨海君を斬り殺したいところだが一応王子なのでそれもできず、わしは涙をこらえて散らばった壺の欠片を拾い集めた。その時、
「殿、咸鏡道北部に義兵が起こり、鏡城(キョンソン)が落されました!」
と報を受けた。
「鍋島殿は何をしてる!」
とわしは大声を上げた。
「鍋島本陣が置かれた咸興(ハムフン)でも義兵が起こり、懸命に迎撃しておられます。殿、直ちに鍋島陣営に援軍を!」
直ちにそうしたいところだが…
「キヨマサドノ、オカワリ!」
「ジャジュンナッ!」
ガッシャーン!!
こいつらどうすんだよッ!!
朝鮮二王子が足かせになって下手に兵を動かせないとか嘘だろ…
カテゴリ:加藤清正くんの日記 | 2017-03-06 公開
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