小西行長くんの日記:第63回 指名手配
7月3日
日本軍が集結している息苦しい首都・漢城(ソウル)を飛び出した。
家臣の内藤如安、娘婿の宗義智、外交僧・景轍玄蘇(けいてつ-げんそ)らと共に行く当てもなく歩き続けた。
刀を差していないってこんなに身軽だったけ。商人をやっていた若い頃に戻ったようだ。小さな酒場を見つけると、一息ついて、再び朝鮮の風景を楽しみながら歩き始めて二日。
「これ、殿と玄蘇様のことでは?」
妓生に扮した如安が、道端の立て札(掲示板)の人相書を指差した。王命により必ずや、倭賊・小西行長、加藤清正、景轍玄蘇を見つけ捕らえよ、と首に懸賞金が懸けられていた。
「え。何故私の名前が…」
儒者に扮した玄蘇が驚いた。
「武将より読書人が尊ばれている国柄が出ているな。」
朝鮮男子に扮した宋義智(よしとし)が感慨にふけった。
「清正を早く捕えてほしいものだ。」
両班に扮した私が願うと、
「流暢な朝鮮語だな。」
と後ろから声をかけられた。殺気がした。
「それはどうも。」
と振り返ったと同時に私は肘で声をかけた男の胸部を付いた。
「小西、玄蘇だ!」
朝鮮軍数十人が直ちに押し寄せて来た。
「逃げろ!」
私たち四人は全力で逃げて、小さな空き家に入った。
「いつから付け狙われていたのでしょう?」
「完璧に朝鮮人に扮したつもりだったのに。」
「多分、如安のせいだ。」
「どういう意味ですか?!」
妓生になり切った(つもりの)如安が女子のように頬をふくらませた。
私たちは思わず声を出して笑ったが、我に返って口をつぐんだ。
そういえば笑ったの、いつぶりだろう。
首に懸賞金懸けられるのもわるくないなと思った。
カテゴリ:小西行長くんの日記 | 2018-09-02 公開
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