藤堂高虎くんの日記:第18回 犂牛(りぎゅう)の子


藤堂高虎8月26日

先月、太閤秀吉公の使者がここ高野山にやって来た。要件は、太閤が私を大名に取り立てたいと仰せのゆえ下山せよ、ということであった。

大名…それは若い頃からの願い。幾度となく主君を変えてきたのも、卑しい身分から成り上がるためだった。

しかし年を取ったせいだろうか。それほど魅力を感じず返事を保留とした。

そのあとも、入れ替わり立ち代わり太閤の使者がやって来ては私をくどいた。私も随分偉くなったものだ。しかし太閤直々に誘いを受けた、それだけで充分と、私はついに決断して丁重にお断りした。

えー、ウソでしょ?!

塙団右衛門は絶句した。彼は性懲りもなくまた、この山の僧に朝鮮の漢籍を売り付けに来ていた。

賜る領地はどこだったのです?

「伊予国(愛媛県)板島だとか。」

なんと、我が主君・加藤嘉明公の隣国!

「それもちょっとイヤだよね。」

アハハハ!そりゃそうだ。しかし大名ですよ、断る侍がどこにいるんです?

「加藤嘉明らと共に水軍将として再び朝鮮の海へ渡れ、という意味なのだと思う。」

李舜臣が王命で牢に繋がれた今となっては、意味がない?

「……」

塙団右衛門

塙団右衛門「また会ったね!」

犂牛(りぎゅう)の子、騂(あか)くして且つ角(つの)あらば、用いることなからんと欲すといえども、山川(さんせん)それこれをすてんや。

(耕牛の子でも毛並みが赤くて、さらに角(つの)がよければ、用いないでおこうと思っても、山川の神々が放っておこうか。)」

「論語(雍也)ですか。スラスラと諳んじるとは…」

一応、本売りですから。

「全部盗品でしょ?」

団右衛門と私が笑うと、照りつける日差し強い山にあって涼しい風が吹き抜けた。

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