毛利秀元くんの日記:第11回 運命の人


毛利秀元2月9日

全羅道・全州(チョンジュ)の宮殿の片隅でうずくまっていた僕に、

どうされました?

と朝日を背後に一人の僧が僕に声をかけた。

「あなたは?」

と僕は尋ねた。

初めてお目にかかります、安芸宰相様。私は太田一吉軍に属す医僧・慶念(けいねん)と申します。

「初めまして。」

と僕は立ち上がり、慌てて手串で自分の髪を整えた。

こんなところで一晩過ごされたのですか。

「はい。どうにも、この戦争の意味がわらかなくて…」

総帥のあなた様がそれでは困りますね。

「お恥ずかしいかぎりです。」

かくいう私も無理やり従軍させられ、この身の不幸に絶望しておりました。しかし日本軍の朝鮮の人々に対する筆舌尽くしがたい暴力を目の当たりにして、逆に吹っ切れましたよ。

「どういうことですか。」

この目にしたこと、全てを記録し、慶念の名を世に残してやろうと決めたのです。

「それはすごい。」

僕は久しぶりに笑った。

帰国後でもいい。宰相様は何かしたいことはありませんか。

「特にはありませんが、目に映る世界、全てに色を亡くした僕は…」

楊鎬

楊鎬

その頃、平壌に在陣していた明の経略・楊鎬(ようこう)と朝鮮宰相・柳成龍は怒りに震えていた。朝鮮南部の黄石山城と南原城を陥落させた日本軍が、鼻切りと殺戮を欲しいままにしたとの報を聴いて――

只今より、明本隊を率いて南下する。

と楊鎬が立ち上がると、

経略――!

と柳成龍の目からこらえていた涙がこぼれた。

 

「誰かに心臓を撃ち抜かれてみたいです。」

私が日本軍総帥・毛利秀元を討つ。

誰かをまだ本気で愛したこともない僕を、運命の人がきっと――

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