藤原惺窩くんの日記:第18回 朋有り、遠方より来る
7月24日
明遊学に失敗して播磨に帰って来て間もなくのこと。若狭小浜城主・木下勝俊様が私を訪ねてくださったので、我があばら家周辺を勝俊様と散策、木陰で腰下した。
「惺窩先生に聞いたいことがあるのですが…」
と勝俊様は荷物を下してを書物を開いた。
「お恥ずかしながら、これはどうのように読んだら宜しいですか。」
それは『論語』学而篇の一節”無友不如己者”。
「己(おのれ)にしかざる者(もの)を友(とも)とする無(な)かれ」
「嗚呼、友無しじゃなくて、なかれか!」
「自分にそぐわない者を友とするな、という意味です。」
と私は答えた。
「ありがとうございます。」
勝俊様は私の言ったことを紙に書き留めた。
「失礼ながら、何故論語を読んでおられるのです?」
「先生が何故、儒にこだわっているのか気になって…」
「え、そうだったのですか!」
「先生は何故、禅僧からわざわざ儒者になられたのです?」
「朋(とも)有り。」

木下勝俊
「遠方より来る。」
「また楽しからずや(学而篇)。――なんて、論語の一節を誰かと共有できることも単純に楽しいですしね。これを好む者は、」
「これを楽しむにしかず(雍也篇)。って、さりげなく試験しないでください!」
「我が国には科挙もないし?」
勝俊様と私は笑った。
「私はやっぱり先生が――」
秋の訪れを知らせる風が通り抜けた。
カテゴリ:藤原惺窩くんの日記 | 2018-07-24 公開
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