小西行長くんの日記:第56回 君と私のAMATERASU
月7月26日
去年の四月に文禄の役が始まり、緒戦は日本軍の優勢だったが、今年に入ると朝鮮・明連合軍の優勢となった。
窮地に陥った日本軍は明との和議に傾いたので、今月中旬に私は明の使節・謝用梓・徐一貫を伴い帰国。明使節は肥前名護屋で太閤殿下と対面した。
これで戦争終結に向けて前進するかと思った。しかし一方で殿下は、前年に敗れた慶尚道・晋州城再攻撃を日本の諸将に命じた。
その陣立ては、戦乱最大の九万二九七二人に達する大軍勢。
今月下旬、私は急ぎ釜山日本本営に戻った。そして、先鋒の加藤清正が釜山から晋州城へ進軍せんとした時、
「ちょっと待った!」
と私は清正を引き留めた。
「どけ、邪魔だ。」
と清正は階段の上から私を見下ろした。
「そんなに急がなくてもいいじゃないか。名護屋で日明の和議交渉が行われている最中に戦争なんておかしいだろ?」
「和議の進行に関係なく晋州城を包囲すべし、との太閤殿下のご命令だ。」
「おまえのかあちゃんが泣くぞ。」
「なんでわしのかあちゃんが出てくんだ。」
「朝鮮役が始まる前、「小西くん、虎之助をよろしくね。」っておまえのかあちゃんに肥後宇土城下で頼まれてんだ。」
「ウソだろ…」
「渡海前、おまえのかあちゃんからもらったお守りも、ほらこの通り。」
と私は懐から「天照皇大神宮」と書かれたお守りを出した。
「おまえはそれでもキリシタンかッ!」
「こっちが聴きたいよ。俺はキリシタンなんだって、おまえのかあちゃんは何ベン言ったらわかってくれるんだ!」
「知るか。今わしにとって必要な女神は古代、三韓を征伐した神功皇后だ!」
そう言っておまえは出陣してしまったけれども、その胸にしまっているのは結局、俺と同じアマテラスではないのだろうか?
カテゴリ:小西行長くんの日記 | 2016-07-26 公開
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