石田三成くんの日記:第48回 刀なんかいらない
文禄二年一月二七日
小西行長籠る平壌城を落とした李如松軍率いる明の大軍は、首都ソウル・漢城(ハンソン)に向けて南下。
漢城に集結していた日本軍は李如松軍を迎撃すべく、真っ暗な早朝、漢城からほど近い碧蹄館(ピョクジェグアン)付近に布陣を敷いた。
先鋒は立花隊。六番隊の石田隊と大谷隊は、後方で固唾(かたず)を呑んでいた。
「明軍が平壌の戦いの時のように、その優れた大砲をここ碧蹄館でも放ったなら、日本全軍吹っ飛ばされる。
大砲に刀が太刀打ちできるわけがない。侍の魂が刀とかいう、時代遅れの精神はさっさと捨て、すぐさま日本も大砲の開発に取り組むべきだと思わないか。」
と私は大谷吉継に問うた。
「突然面白いことを言うね。侍にも刀狩をしろと?朝廷から武家が日本を支配するようになって、ん百年。
日本男子から刀を取り上げるのは容易ではないよ。百姓でさえ刀を捨てるくらいなら、死んだ方がマシだと思っている。出羽奉行として刀狩の監察を行った私がいうのだから間違いない。」
と大谷は答えた。
「俺はこんな所で死ぬくらいなら、喜んで刀なんかいくらでも捨てられる。」
「どこまでも現実的。三成らしいね。侍失格だよ。」
その時、ついに李如松軍到来か。前方より鉄炮の音が鳴り響いた。
「士であるのに大事なのは刀ではなく、君である太閤殿下の明制圧という志を遂げることではないか。」
「この戦争において太閤のため、日本のため、とか本気で言っているのは三成と清正だけだよ。」
「ご注進申し上げます。」
総大将・宇喜多秀家様の者が戦況の報せに来た。
「明・査大受(さだいじゅ)先鋒隊到来、その数およそ一万。日本軍先鋒中陣・十時伝右衛門殿戦死、立花先鋒本隊が明軍の側面を突き、査大受隊後退致し候。」
その報せに六番隊の石田隊と大谷隊の者たちはどよめき立った。
「来るぞ。」
李如松本隊数万の足音が聞こえて来るようだった。
「今日はいい天気になりそうだな。」
大谷がようやく昇った太陽を眩しそうに見つめた。
勝つ為なら、喜んで刀なんかいくらでも捨てられる。
侍失格でも構わない。
どこまでも現実的。
今日も私らしく戦うだけだ――
カテゴリ:石田三成くんの日記 | 2019-05-24 公開
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