北条氏康くんの日記:第33回 綱成、北条家を去る
5月13日
河越夜戦で上杉憲政に勝利した私は、武蔵国を手に入れた。しかし喜びよりストレスが増えた。
武蔵国には、鎌倉時代から続く名門や豪族がたくさんいる。そんな彼等の多くが、数十年の歴史しかない北条家の配下になることは、屈辱でしかない。
どうしたら、北条は彼等に受け入れてもらえるのだろうか。私が屋敷でひとり頭を抱えていたら、「また、政(まつりごと)でお悩みですか。」と家臣の綱成がやって来た。
「うん、大丈夫。綱成は軍事のことだけ考えてくれればいいよ。」「私は、軍事面でしか氏康様のお役に立てないということですか。」「そんなこと言ってない。」
「もっと相談してくれてもいいのに。こんな小田原衆所領役帳という大作も、私の知らない間に氏康様は、さらりと一人で作りあげてしまう。」と綱成は言って、私から借りていた、北条家臣団や所領を記した小田原衆所領役帳を返して、出て行った。
何、怒ってんだろ。別に何もかも綱成に相談しなければいけない法なんかないし。
そして二日後の今日の朝、いつもの様にお茶漬けを食べていると、家臣の石巻が息を切らせて、やって来た。
「大変です、殿。武田家からやって来た、原虎胤(とらたね)殿が、武田に帰ってしまわれました。」「は?!」
石巻は私に、虎胤殿の置き手紙を渡した。
「氏康殿へ。大変お世話になりました。このご恩は生涯、忘れません。武田に帰る私をどうぞお許しください。虎胤より。追伸:小田原から甲斐国までの道案内に、綱成殿をお借りします。」
「は!?綱成を借りるって何!?綱成まで、出て行ったの!?」「はい、綱成殿もどこを探してもおりません。」
いつの間にか綱成とすれ違ってる。本当に道案内だけなのだろうか。
『綱成は軍事のことだけ考えてくれればいいよ。』『もっと相談してくれてもいいのに。』
虎胤殿を武田に無事に送り届けてくれた後、綱成はここに帰ってくるだろうか。どうしよう。私の所に戻って来るだろうか。
カテゴリ:北条氏康くんの日記 | 2010-05-13 公開
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