真田幸村くんの日記:第30回 昇進
先日、とある戦国ファッション雑誌で、伊達政宗を見つけ以来、私は彼の存在が気になっていた。同い年の彼を、私は勝手に自分のライバルとし、徳川家康と一緒に政宗も討ちとりたい。そんなことまで思っていた。
しかし政宗は私の名前を、存在を、知っているのだろうか。60万石以上のお殿様の政宗に対し、私は大坂城に戦国ハケンとして雇われているただの浪人だ。
おばんでがす~とかい言ってる、あんなバカっぽい人間が、急に雲の上の人に見えてきた。ライバルなんて、もしかして厚かましい。
私は深く溜息をついて、今日も大坂城の厠掃除を始めた。お昼過ぎ、「幸村殿、お疲れ様です。お話があるのですが今、宜しいですか。」と大坂城の若きエース、木村重成くん厠にやって来た。私は「なんでしょうか。」と雑巾を絞っている手を止めた。
「厠掃除奉行から、旗奉行になっていただけませんか。」「旗奉行って、いくさの時、旗を持っている人間のことですか。」「はい。平時の時は、豊臣家の旗を管理していただきます。」
「お断りします。」「は?!」
「その場を動かず、大将の旗を倒さぬことだけを考える旗奉行なんかやっていたら、私はこの手で家康も政宗も討てないじゃないですか。」
と盛親先生(長宗我部盛親)も、やって来た。「いやですよ、あんな地味な仕事。」と私は先生にグチった。
「だからこそおまえなんだ。みんなが武功を立てようと敵陣へ攻め込む時、旗を守備する旗奉行は、辛抱強く聡明な人間でなければ務まらない。木村は幸村を見込んでお願いしてるんだ。」
「木村って、大坂城幹部の私を呼捨てですか。」
「というか重要な役目をハケンに任す豊臣家がわかりません。私は旗奉行より、セイシャ武将になりたいです。」
「真田幸村ッ!!!」
「冗談ですよ先生。やりますよ、やればいいんでしょ、旗奉行。」「よかった。これで豊臣家の前途は明るい。」と木村くんは爽やかに笑い、「厠掃除をいままで、がんばってきた甲斐があったな。栄典、おめでとう。」と先生は私の肩を叩いた。
自分はライバルだと思っていても、相手は自分をライバルだと思ってもらえてないことが、悔しくて悔しくて。食い縛った歯から血が出てきそうなほど、ただ悔しくて。こんなに自分が負けず嫌いだとは思わなかった。
けれど旗奉行を任された私は、伊達政宗に少し近づくことができたのかもしれない。政宗を討つことからは少し離れた気がするけど、と私は苦笑した。
カテゴリ:真田幸村くんの日記 | 2010-03-01 公開
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