北条氏康くんの日記:第31回 綱成の父の敵
1月20日
私は先月、甲斐国からやって来た、武田信玄殿の家臣、原虎胤(とらたね)殿を小田原城に迎え入れた。原殿は、信玄殿のおかしな出席確認がいやになって、甲斐国を飛び出したそうだ。
そして今朝。私が、機嫌良くお茶漬けを食べていたら、家臣の清水が「殿は、綱成殿の実のお父上を討ったのが原虎胤殿だということを、勿論ご存じですよね?」と声をかけてきた。
「今、なんて?!」「今川家の譜代家臣だった綱成殿のお父上、福島正成(まさしげ)殿が今川の大軍を率いて甲斐国に攻め込んだ時に、これを撃退し正成殿を討ち取ったのは、原虎胤殿ですよ。」
「なんで早く、それを言わないんだッ!」
「殿がそこまで天然だと思わなかったもので・・・」「天然で悪かったなッ!」
私は憂鬱な気持ちで、夕方、玉縄城から小田原城にやって来た綱成を迎えた。私達は城内の庭を歩いた。「長く患っていた病も、すっかりよくなったみたいだね。」「その節は、ご心配をおかけしました。殿は少しやつれた感じですが、何かありましたか。」
「ナイナイ、何もないよ。」嗚呼、虎胤殿を小田原城に迎え入れたなんて、綱成に言えない。・・・・って前方から、私の家臣の石巻が原虎胤殿を連れてやって来た。
石巻は、「原虎胤殿に城下を案内して差し上げようと思うのですが、宜しいでしょうか。」と私に尋ねた。「はら・・・とら・・たね殿?」と綱成は目を見開いた。
「綱成殿、こちらは甲斐国の原虎胤殿です。原殿、北条綱成殿でござる。」
「おお、御貴殿が北条家の猛将、綱成殿か。貴殿は誰かに似ておる・・・嗚呼、思い出した!今川の今は亡き、福島正成殿じゃ!顔もそうじゃが、大軍を率いて、臆することなく敵に挑む勇姿も、正成殿と綱成殿はよく似ておるわ。」
と原殿は笑って、何事もなかったように石巻に連れられて城下へ向かって行った。取り残された綱成と私の間に重たい空気が流れた。
「原殿は綱成の父上が福島正成とは、全く知らないようだったね。」
「しかし私の父のことを、鮮明に記憶していているようでした。私が病を患って、床にふせている間に、我が父の敵(かたき)を小田原に招くとは、これはいかばかり。殿、御覚悟!」と叫んで綱成は、そこにある帚(ほうき)で私の胸を討った。
「うっ、綱成の謀反じゃ・・・」と私は倒れた。「そんなにノリがよかったでしたっけ、殿って。」と綱成は大きな声で笑った。
綱成が病を患って、私はかなり動揺していたのかもしれない。それで慌てて、猛将の原虎胤殿を召し抱えたのかもしれない。
綱成のように私も、父も母も既になくした。おまけに成り上がりの北条家には譜代家臣もほとんどいない。
そんな私にとって、今川家からやって来た綱成の存在は大きい。同い年の義兄弟。同い年の主君と家臣、そしてベストフレンド。結構、天然でぬけている私を今年もどうぞ宜しく、綱成。
カテゴリ:北条氏康くんの日記 | 2010-01-20 公開
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