北条氏康くんの日記:第30回 二人の隙間に鳴くコオロギ
10月27日
小田原城を上杉軍に包囲されて、一か月。北条軍はこれを死守した。大将の謙信は諦め、越後へ引上げた。その上杉軍を我等は、背後から討つことにした。
追撃する北条軍三千を指揮するのは、家臣の綱成だ。私は小田原に残ることになった。「あ、今、コオロギの鳴き声がした。」と綱成は薄暗い天守の下で、見送りに来た私に言った。「何も聴こえないけど。」「リリーンって確かに聴こえましたよ。」と綱成は兜の緒を締めて、出陣した。
それから一週間後の今日。北条軍が無事小田原に帰還した。「軽めに、けれどきっちりと上杉軍にお灸をすえてきました。」と綱成は笑顔で私に報告すると、私の目の前で突然、倒れた。私は驚き、急ぎ医者を呼んだ。綱成はどうやら、出陣前から高い熱を出していたらしい。
綱成は何故、熱があることを私に、言ってくれなかったのだろう。けれどそれに気付いてあげられなかったのは、私の方。今日は誰に、勝ったとか負けたとかで人生の全てを支配されている、虚しい私には気付いてあげることができなかった。
私は薄暗い天守の下、綱成が出陣前、鳴き声を聴いたコオロギを探した。無理をした為に病が回復しなかったら、どれだけ皆が悲しむか。そんなこともわかってない大馬鹿な綱成の為に、私は探し続けた。
カテゴリ:北条氏康くんの日記 | 2009-10-27 公開
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