淀殿の日記:第38回 華麗なる滑稽


淀殿5月19日

白状するとわらわは、色欲に溺れる戦国武将、愛だの恋だの信じている姫たちをどれ程軽蔑していたかわからない。

あの時―柴田の父上が母・市とともに自害された時――、炎上する北ノ庄城を見つめながら、わらわは絶対に豊臣政権でてっぺんとったる!という志を立てた。

これは浅井長政と織田信長という華麗なる一族の血を引くわらわの意地でもあった。

一度志を立てた人間は、色欲に溺れたり、愛だの恋だの信じている暇はない。

志に邁進しているにも関わらず異性が気になるとしたら、それは志に集中できていない証拠。

異性に気を取られて、志を遂げられない人間なんぞ目も当てられない。

そんなわらわだったのに、大野治長に出逢ってからどうしたことだろう。

大野治長のことで頭がいっぱいで、彼の一挙一動に右往左往して、志どころか何も手に着かない状態なのだ。

織田有楽斎

織田有楽斎

それだけならまだよかった。

わらわは一方的に想っているだけのこの恋を日記に書いては公開し、是非ともそなたに聴いてもらわなければならなかった。自分の胸に秘めておくということがどうしてもできなかった。

自分でも何がしたいんだろうと思う。大野治長のことは早く忘れた方がいいと思う。

だけどもし恋に落ちることに意味があるとしたら、それは美しいからではなく、滑稽を演じるハメになるからではないか?

滑稽な人生にこそ希望があるのではないか?

可笑しいでしょう。大野治長に出逢ってから、わらわはそんなふうに思い始めているのだった。

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