明智光秀くんの日記:第36回 一目惚れだった。
私の妻のひろ子は、私に嫁ぐ直前、疱瘡(ほうそう)を患い、左ほほにひどい痘痕(あばた)が残ってしまった。ひろ子の父は、娘が醜くなってしまったのでと、結婚を白紙に戻そうとした。
「ひろ子さんは既に私の妻と決まった女(ひと)です。今更覆せません。」と私は言った。
「あの瞬間私は、光秀様に、恋に、落ちました。」とひろ子は、鏡を見ながら白粉(おしろい)を顔に塗った。「あれー。この白粉高かったのに、あんまり痘痕の跡を隠せないなあ。」
「え。また新しい白粉、買ったの?!」と驚く私に、「光秀様は城持ちになったんだし、ちょっとくらい贅沢したっていいでしょ。」とひろ子は平然と言った。
「外はすげー寒いのに、ここはいつも熱いな。」
振り向くと、松永久秀殿が勝手にうちに入って来ていた。「あら、松田殿。お久しぶりです。」
「松田って誰だよ、松永だよ!相変わらずひろ子は、明智光秀が富士山なら、それ以外の男は並びの山、みたいな扱いしてくれるよな。」と松永殿は苦笑して、お土産の葡萄酒をひろ子に渡してくれた。
私はひろ子に一目惚れだった。瞳が大きくて、とてもかわいらしい女(ひと)だと思った。痘痕の跡なんて全く気にならなかった。あの時も今も、この先も多分ずっと。
カテゴリ:明智光秀くんの日記 | 2010-12-08 公開
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