淀殿の日記:第15回 折鶴


淀殿 11月4日

病に倒れた太閤殿下は、いまだ回復することなく、寝込んだままであった。五大老の折った、色とりどりの千羽鶴が、天井からむなしく吊る下がっていた。

サルが死んだら、大坂城は、わらわは、どうなるのであろうか。大野治長に逢いたい。しかし理由もなく逢えるわけがない。この片思いは言いようのない孤独だけを、わらわに教えてくれるのであった。

しかし孤独が、長い間眠っていた情熱を静かに呼覚ましてくれる。今、大切なことは、誰かと寂しさを共有することではない。誰かに賞賛されたり、誉められたりすることでもない。

今なら、孤独の中に身を沈めて、まっすぐに自分を見つめることができる。ならば、傷つくことを恐れたばかりに、湧きあがった情熱を消すことしかできなかった日々に終止符を打とう。いい加減、太閤殿下に甘えてばかりもいられまい。

五大老の折った千羽鶴を繋ぐ無数の糸。その内の一本が切れて、折鶴が数羽、床に落ちていた。この折鶴は遠くまで飛ぶという。本当だろうか。

守るべきものがあるなら、秀頼の為なら、心臓をえぐり取られるような痛みさえ引き受けて、一歩前へに踏み出そう。後戻りできないこの恋と情熱が冷めないうちに。

わらわは、朝焼けがにじむ空に向かって折鶴を一羽、飛ばしてみた。

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