小西行長くんの日記:第43回 いつもそこに君がいた
8月25日
一匹のカブトムシを見つけた。宇土城の柱の上の方で、大きく足を広げてじっとしていた。
「こにし!」
元主君の宇喜多秀家さまを思い出した。手が届かず木の下で飛び跳ねる小さな秀家さま、つまり八郎さまの為に私は、カブトムシをよく採ってあげていた。
「こにし!」
思えば八郎さま程、私の名を呼んでくれた人もいなかった気がする。確かに誰かに必要とされていた、あの頃の記憶がよみがえる。
「おい小西ッ!」
振り向くと、隣り近所の加藤清正が私の背後に立っていた。「またおまえかよ。いい加減にしてくれよ。」
「これからわしは、福岡の黒田長政殿の屋敷に遊びに行く為、熊本城をしばし留守にする。これを預かっておいてくれ。」
私は清正からクワガタが一匹入っている虫籠を渡された。「はあ?何で俺が?!」「隣りだから。」「知るかよ。」
秀家さまは今、どうしているだろう。一人でいる方が好きなのに、今また誰かに必要とされたいのは何故だろう。清正から預かった虫籠を部屋の片隅にそっと置き、私は取り残されたクワガタと一緒に梨を食べた。
カテゴリ:小西行長くんの日記 | 2011-08-25 公開
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